業界ニュース
連載「胎動期の底流」8
「競合より協調」をモットーに 日本はインフラ先進国
ICTが潜在成長力向上のカギ
提供:電経新聞社(2008/11/03)
IMDの世界競争ランキングを見る限り、日本はインフラ先進国といえそうだ。そのような観点からいっても、日本の国際競争力を高めるには、NGNをベースにした戦略が不可欠となる。いまは「競合より協調」をモットーに事業を推進していくべきではないか。(北島圭)
NGNを巡り、通信事業者とIT事業者の間で齟齬が生じている。マスコミ的な野次馬精神で、彼らのすれ違う様子をおもしろおかしく煽り立てるのはたやすい。しかしそれでは建設的な発展は望めない。世界に先駆けてスタートした最先端ネットワークであるNGNを盛り上げていくには、利害関係者が互いの立脚点を認め合い、膝を突き合わせて議論することが何より大切なのだ。
ここではスイスのIMD(国際経営開発研究所)が5月に発表した世界競争力ランキングを議論のたたき台にしたい。同ランキングによると、日本は55カ国中22位と決して芳しい状況とはいえない。昨年は24位だったので少しましになった程度だ。
同ランキングは① 「経済状況」、② 「政府の効率性」、③ 「ビジネスの効率性」、④ 「インフラ」の4指標で評価されている。
このうち① は29位で、昨年の22位からさらに順位を下げた。項目別では物価水準が46位と低迷している。② は39位で、こちらも昨年の34位からさらにダウンした。項目別では財政状況が53位、社会的枠組みが51位と惨憺たる結果が並ぶ。③ は24位。昨年の27位からやや上昇した。生産性と効率性が31位と低迷している。
どれもこれも評価は低く、どうやらいまの日本は、先進国とは呼べる状態にはないようだ。
ところが、④ のインフラだけは4位と非常に高い評価を得ている。とくに科学インフラはトップクラスの2位だ。
もちろん同ランキングは評価プロセスにあいまいな部分が見受けられ公表された結果すべてを鵜呑みするのは厳に慎まなければならない。ただ日本のインフラが比較的高水準にあるという点は認めていいはずだ。
この点を踏まえて煮詰めていけば、日本の持続的成長には、強いインフラをベースにした仕組み作りが不可欠であることが浮き彫りになる。
ICTの分野に置き換えるなら、NGNを生かした戦略が潜在成長力を高めるカギとなる。
私が取材した範囲の話をする。
まず通信事業者は旧来固定網のリプレイスという認識でNGNを強く推進しているように思われる。
インターネットの置き換えという意識は薄く、フルIP化することで得られるネットワークの保守・運用コストの効率化に照準を定めているようにも見える。
周知の通り固定網は100年以上に渡って通信サービスを支えてきた非常に堅牢なインフラだ。通信事業者はNGNに関しても将来を見据えた堅牢なインフラにしていく構えを崩していない。それがインフラ事業者としての当然の責務だからだ。
例えばこれまで固定網で提供してきた電話サービスをNGN上でも再現する必要がある。ユーザにネットワークの違いをまったく意識させずに提供するサービスを「エミュレーション・サービス」と呼ぶが、その実現には非常に高度な技術が求められ、通信事業者の技術陣は夜を徹してその任務に当たっている。ユーザからすれば、いままで受けていたサービスがそのまま使えるだけなので、特段の驚きも喜びも感じないが、楽屋裏の技術者の苦労は相当なものだ。インフラを支えるというのは、曲がった釘をまっすぐに矯正する行為にどこか似ている。派手さはなく目立たないが、その心血の注ぎぶりは想像を絶したものなのである。
100年以上耐えられるインフラを構築するには地味だが堅実な姿勢が何よりも求められる。その辺の実情を理解せず、上辺だけを観察してしまうと「キャリアの動きは保守的」ということになってしまう。
私見では、ガラパゴス批判もネットワークの堅牢性を追求しがちな通信事業者の姿勢が誤解されてのことだと捉えている。
一方、IT事業者は、技術進展が凄まじい環境の中で非常に早いサイクルのビジネスを展開している。1年前に投入して好評を博したサービスがいまはもう廃れてしまっているというのは日常茶飯事で、ビジネス遂行に当たってはスピードが何よりも重視される。“思い立ったら即行動”が信条でなければ生き残っていけない彼らにとって「100年後などどうでもいい。いまがすべてだ」というのが本音だろう。
100年後を見据えて事業を画策している事業者と、直近のトレンドをベースに動いている事業者の波長が合わないのはある意味当然だ。また、堅牢性・セキュリティに重きを置く文化と、スピード・インパクトに重きを置く文化は、水と油と表現しても過言ではない。
しかし、だからこそ、歩み寄り、協働できたときのシナジー効果は大きいのではないか。ユーザ利便性の最大化を図るという観点でいっても非常に有効な取り組みだと思う。例えば現在のトピックスである「クラウド・コンピューティング」は、アプリケーション・サービスはもとより、通信の品質やセキュリティが大きな意味を持つ。NGNを活用したクラウド・コンピューティングが実現すれば、かなりのユーザを開拓できるはずだ。それは通信事業者にとってもIT事業者にとっても嬉しい話だろう。ニーズが満たされユーザもハッピーになれるのだからこんないいことはない。
くどいようだが、そうなるには、お互いの立ち位置を理解し、建設的な議論を続けることが重要だ。前述した世界競争力ランキングからもわかるように、日本の国際競争力強化にはICTインフラを活用していくしかない。せっかくNGNという世界に冠たるネットワークが立ち上がったのだから、ここは1つ、「競合より協調」をモットーに事業に当たるべきではないか。
米国発の世界不況が猛威を振るっている。日本経済も厳しい舵取りを迫られているが、他国の状況と比べれば、ましな部類に入るように思われる。ICT分野にフォーカスしても、IPv4アドレス枯渇問題はNGNを契機にしたIPv6化の流れの中でわりとスムーズに解決できそうだ。そういう意味では、再度世界に打って出る千載一遇のチャンスが到来しているともいえる。
私事で恐縮だが、日本が最も輝いていたとされる80年代は小中学生で、そのダイナミズムを実感できなかった。高校時代の終わりにバブルが崩壊。大学時代は就職氷河期でひどく難儀した。社会人になってしばらくすると都市銀行や大手証券会社がバタバタ倒産する未曾有の経済危機に。当時は「橋本不況」と称されていたが、その後、小渕政権、森政権と流動し、IT景気でちょっと落ち着きを取り戻したと思いきや、小泉政権樹立間もない01年9月11日、米国でテロが勃発。と同時にITバルブも弾けた。そうして時代はワーキングプア、格差社会‥と続く。私らの世代はいったいに悲惨な目にばかり遭っているようである。怒涛のかもめといったところか。
そのせいか、日本浮揚の夢は人1倍強いようである。世界で活躍する日本の姿を、実感を持って見てみたいものだ。
